同時代史学会と『同時代史研究』

浅井良夫

昨年2008年の11月に同時代史学会の会誌、『同時代史研究』の創刊第一号が刊行された。同時代史学会は、2002年12月8日に発足した学会であるが、まだ知名度も高くないので、会誌の紹介をする前に、学会について説明しておきたい。
「同時代史学会とは変わった名前ですね。なぜ、同時代史なのですか」と聞かれることが多い。2001年に、数人の研究仲間と学会の創設を企画した時の動機は、第二次大戦終結から半世紀も経つのに、戦後史に関する研究が低調なので、活発にしたいということであった。その際に、あるメンバーが、「戦後史という用語は一国史的であり、国際的感覚を欠いている」という板垣雄三氏の議論を紹介し、「戦後史学会」の名称は不適当だと主張した。そこで、それに代わる名称をあれこれ考えた挙句、「同時代史学会」に落着いた次第である。
「戦後史学会」の代わりに「同時代史学会」の名称が選ばれた理由は、それだけにとどまらない。「現代史」ではなく、「同時代史」というあまり耳慣れない言葉を選択したのは、学会の創立メンバーたちが、現在と密接な関係を持ちつつ歴史研究を推進したいとの思いで一致していたからであった。そのためには、アカデミックな枠を越えて、実社会のさまざまな分野で活躍している人々も取り込んだ「市民に開かれた学会」を目指す必要があると考えた。
創立メンバーは日本を研究対象とする者ばかりであったが、国際的な視野に立つとすれば、東アジア・東南アジアを中心とするアジア地域や、アメリカなど、近現代日本と深いかかわりのある地域を専攻する研究者に輪を広げるのは当然である。そこでその後、アジア史、アメリカ史の研究者にも声をかけることになった。
創立準備大会から第7回大会(今年の12月に開催)までの大会テーマは、「サンフランシスコ講和50周年を考える」、「同時代史の中の戦争」、「デモクラシーの同時代史」、「朝鮮半島と日本の同時代史──東アジア地域共生を展望して」、「日中韓ナショナリズムの相克と東アジア」、「同時代史としての憲法」、「消費から見る同時代史」、「60年代論の再構築」である。
大会のほかに、年3回の定例研究会を開催している。研究会は、若手研究者の報告2、3本とコメンテーター2名が基本スタイルになっており、毎回、若手による斬新で意欲的な報告がなされ、40名程度の参加者を交えた活発な議論が展開されている。研究会のテーマを紹介する紙幅がないので、キーワードだけを掲げれば、エスニシティ、情報、戦争経験、開発、家族、消費社会、環境、戦後民主主義、等々である。キーワードだけでも、研究会の輪郭がお分かりいただけるだろう。
2008年11月に、ようやく念願であった会誌『同時代史研究』(年報)創刊号の発刊に漕ぎ着けた。レフェリーつきの歴史研究論文を掲載するアカデミック・ジャーナルである。創刊号には、「特集 同時代史研究の展望」(安田常雄、三宅明正、中野聡の三氏が寄稿)のほかに、河西秀哉「象徴天皇制・天皇像の定着」、田名部康範「岸信介の二大政党論」の二本の投稿論文が掲載された。
アカデミックな枠を越えるという学会の趣旨と、レフェリージャーナルの編集スタイルとは矛盾しないかについては学会内でも議論がある。若手研究者に投稿論文の発表の機会を設けることは、研究の活性化に不可欠であるが、アカデミックな枠を越える文章が、論文以外の形式でジャーナルに掲載されることも当然あってよい。また、従来から存在する学会の「News Letter」を、幅広い発表の場として活用して行きたいとも考えている。
なお、同時代史学会および『同時代史研究』に関心をお持ちの方は、ホームページをごらんいただきたい(http://jachs.hp.infoseek.co.jp/)。
[あさい よしお/同時代史学会代表・成城大学教授]