神保町の交差点

●20年程前の書店店舗数は2万2千ほどと言われ、ある程度の規模の版元であれば全国の書店に一冊ずつ配本したとしても初版は2万部となり、返品はあれど新刊を出し続けることでその豊かさが出版社に還元されていました。当時は研究書でも初版三千部が当たり前でした。

日販の「出版物販売額の実態」(2020年版)によれば書店数の減少は深刻で、2009年には1万3194店あった「本屋さん」が2019年には9242店と約3割が廃業しました。多くの専門書出版社が頼りにしているジュンク堂書店でも、2020年だけで2店舗を閉店(名古屋ロフト店・京都店)、2店舗の売場面積を縮小(鹿児島店・福岡店)する状況です。「ジュンク堂は我々を見放したか」「池袋本店があればよい」とか、「専門書だけでは食っていけないのかね」など同業者から嘆きの声が上がる一方で、大型チェーン店であってもあり続けることの困難に気づかされます。本と読者をつなぐ「場」の減少は、とくに専門書版元にとって深刻であるにもかかわらず、有効な打開策は見当たりません。店舗「数」の減少によって、倉庫や取次に行き場のない新刊の在庫が滞留しています。「斜陽産業」と言われ続けて久しいなかで、近年ネット書店の躍進や、2020年に限って起こった「巣ごもり需要」などがあり、躍進している版元もありますが、多くの専門書版元に大きな変化はありません。

●小社の50周年も他業種同様大変な状況となってしまいました。半期が終わり新刊の点数を確認すれば、計画していた数を下回り、下期においても追い上げることはできず51期へとなだれ込みます。さらに例年12月であれば来期の新刊として年間刊行点数の3分の2はすでに見通しが立つ状態なのですが、51期に流れた企画を含めてもその数は例年の半分にも達しません。12月の全体会議で、このことを議題に挙げ社員と話し合いました。この新刊点数では会社が続けられない、「来期は食っていく本づくりをしよう」つまり新刊の「数」勝負でいこうと宣言したのです。ひと昔であれば前社長・吟の「企画が足りない」の一言で、各編集者がどこからともなく企画をもってきては、決算時に辻褄が合うという光景がありました。しかし今回かえってきた言葉は、「ただ出せばよいのでしょうか」「作るだけで内容を吟味しないことに抵抗がある」「評価してもらえる本を作りたい」との言葉。「貧乏するぞ」と言っても場の雰囲気は変わりません。明確な判断が下せず年明けに持ち越しとなりました。会議から数日たちこの一年を振り返った時、社員の「研究書で飯を食う」という意思表示が端々に表れていたことに気が付きます。

「出版は著者との共同作業」、預かった原稿を読み通し、起承転結がなされているかなど、「この原稿を本にするにあたって何が必要か」のやり取りが編集者間で頻繁に行われていました。この一、二年のあいだに編集者各々に芽生えてきた「覚悟」のように感じたのです。100ページであろうと700ページであろうと、皆の取り掛かる姿勢に違いはありません。「とにかく出せ」ではなく「よい原稿と思うならば書き上がるまで待つ」、「数勝負」ではなく中身なのだと、著者・編集者に発信し続けられるよう、これを大きな転換期としてとらえ私自身覚悟を決める年始でした。 (僅)