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フランス版インターンシップのすすめ?

五十畑 浩平

 日本では、ここ一〇年でインターンシップの数は急増している。二〇〇七年度では五万人に満たなかった大学生の参加人数は、二〇一八年度では六五万人と一〇倍以上に増加した。民間の調査では、二〇一七年度、就活生の七二%がインターンシップに参加したとしている。一方で、質の面では大いに疑問がある。研修期間については半数近くが一日にとどまっており、内容面に関しても、日本ではグループワーク、社員からのレクチャー、会社見学などが中心で、インターンシップ本来の目的とは大きくかけ離れている。
 そうしたなか、フランスに目を転じればまったく別の景色が広がっており、「スタージュ(stage)」と呼ばれるフランス版のインターンシップは、いまや若者の就活に欠かせない存在となっている。
 年間のべ一六〇万人の学生が行っているスタージュは、就職手段として最も活用されているツールの一つである。エリート養成校のグランゼコールに限ってみれば、スタージュを通しての就職が最も多く、その割合は三割から四割に達する。研修期間も一回あたり数か月から半年と長く、しかも一人数回行うのが一般的である。研修内容も充実しており、教育機関で学んだ理論や知識を、現場における就業体験を通して実践することができる。
スタージュの歴史は古く、前出のグランゼコールに由来する。一八世紀後半、産業革命と歩調を合わせるように誕生したグランゼコールは、当初から産業界のニーズに合わせた実践的なカリキュラムで、国や企業をリードするエリートを養成してきた。そのカリキュラムの重要な一端を担ったのがスタージュである。
 そもそもはエリートのみが行っていたフランスのスタージュ。それが大学などグランドゼコール以外にも広まり、一般化・大衆化したのは一九八〇年代以降である。大卒でも半数が非正規の仕事にしか就けていない就職難の現在、就職するにはスタージュの経験が必須となっている。
こうしたなか、一方では若者層の雇用情勢の悪化を背景に、大衆化にともないスタージュが安価な労働力として濫用されるなどして社会問題になっている側面も否めない。スタージュしか「働き口」がないといった状況も珍しくなく、インターンシップを促進する日本とは正反対にスタージュは規制される対象にすらなった。
 以上のように、フランスのスタージュは、存在の大きさ、役割、そして社会へのインパクトなどの面で日本のインターンシップとはまったく違う。このスタージュが、なぜそしてどのように社会に浸透していったのか。また、スタージュがフランス社会にどのようなインパクトを与えているのか。こうしたスタージュの多くの謎に迫ったのが、『スタージュ:フランス版“インターンシップ”──社会への浸透とインパクト』(A5判、本体五二〇〇円)である。
第Ⅰ部では、スタージュとはなにか、また、スタージュの実態はどのようになっているのかなど、スタージュの概要を明らかにしている。また、第Ⅱ部では、スタージュがどのように発展を遂げたのか、とくにグランゼコールで誕生したスタージュがどのように大学等に広まり、その背景には何があったのかなど、歴史的プロセスを解き明かしている。
 第Ⅲ部では、スタージュの特性を踏まえたうえで、なぜフランスではスタージュが今日のように社会へ浸透したのか、スタージュの浸透要因とその背景を解明している。また、第Ⅳ部では、浸透したスタージュは社会へどのような影響を与えているのか、スタージュのインパクトを究明している。
本書の特色は、これまでは明らかにされなかったスタージュの社会への浸透プロセスや浸透要因を、スタージュがもつ制度上の「フレクシビリテ(柔軟性)」という特性に着目し、学生・企業・教育機関の各アクターとの関係のなかで、いかに浸透していったかを解明しているところにある。また、大衆化したあまりに社会問題化したスタージュの負の部分にも焦点をあて、単にスタージュを教育問題としてのみとらえず、雇用問題・労働問題として取り上げている点も特色の一つと言える。
 ひるがえって、日本のインターンシップは、今後どの方向に進むのか。インターンシップ「先進国」であるフランスのスタージュの歴史や実態、またその功罪を理解することなしに、その将来を語ることはできないだろう。
[いそはた こうへい/名城大学准教授]