• TOP
  • PR誌『評論』
  • PR誌『評論』174号:そろそろ本気で電子投票を考えてはどうか

そろそろ本気で電子投票を考えてはどうか

岩崎正洋

そろそろ本気で電子投票を考えてはどうか
岩崎 正洋

日本で初めて電子投票が行われたのは2002年のことである。それ以後、現在まで計20回、10の自治体で実施されてきた。日本では、電子投票の実施が地方選挙に限られているため、国政選挙には導入されていない。これまでに国会で電子投票の国政選挙への導入について法案の審議がなされたこともあるが、今のところ実現していない。
全国的な普及という点からすれば、日本の電子投票は、今なお途上にあるといえるかもしれないが、すでに、ある自治体では、これまでの市長選挙と市議会議員選挙との両方で計4回も電子投票を実施した。つまり、自治体によっては電子投票が定着しているところもある。また、実際に、電子投票を経験した有権者の多くも、一度、電子投票を行うと、それ以降も電子投票による選挙を希望する傾向がある(この点は、私が研究室の学生たちと一緒に行った電子投票を実施した自治体における有権者へのインタビューによって明らかになっている)。
それにもかかわらず、我が国では、電子投票についての正確な情報があまり流布しておらず、電子投票の利点と欠点とが混在したかたちで、非現実的な投票方法として位置づけられているように思えてならない。選挙といえば、投票用紙に手書きで候補者名や政党名を記載する方法が今でも採用されており、自書式投票こそが普通の投票方法として定着している。角度を変えてみれば、デジタルな時代に生きている我々がアナログなかたちで行う今時珍しい行為が選挙であり、自書式投票だといえる。
この夏は、各地で立て続けに選挙が行われた。いずれの選挙結果も日本政治の行方に大きな影響を及ぼすことになるだろうと位置づけられていた。これらの選挙は、従来どおりの自書式投票で行われたため、すべての開票作業が終了し、結果が判明したのは深夜のことであった。ほとんどの場合に、午後八時で投票が締め切られ、午後九時過ぎより開票作業が始まるが、結果が出るまでの間、マスコミによる開票速報がテレビやインターネットを通じて流され、有権者は結果が出るのを待つばかりであった。毎度のことながら、テレビの開票速報は、各局とも独自のデータや出口調査をもとに、各党の獲得議席数の予想や各候補者の当落情報などを深夜まで伝えていた。
電子投票が普通になったら、開票作業は瞬時にして完了し、直ちに開票結果が明らかになる。開票作業に従事する多数の人員が不要となり、人件費は軽減する。開票の際に生じる問題が多少は解消する。たとえば、誤字脱字が書かれた投票用紙の判読など、実際の開票作業は煩雑である。しかし、電子投票になれば、これらの問題は一気に解消する。
我々の日常生活は、銀行のATMや券売機のタッチパネルに触れたり、パソコンのキーボードをたたいたり、携帯電話を操作することから成り立っている。その延長線上に選挙の際の投票があっても、今や何の違和感もないのではないだろうか。電子投票は、有権者の利便性から考えても、いくつかの利点がある。有権者は、投票機にタッチするだけで簡単に投票できるし、正確に投票できるし、バリアフリーという点からも容易に投票できるようになる。もちろん、機械であるため、故障という問題にどのように対処するかは重要な課題である。
今後の行方を左右するほどの選挙結果を瞬時にして把握できる時代であるにもかかわらず、それができないのはなぜだろうか。技術的な理由ではなく、むしろ政治における時代錯誤的な感覚が理由であるとしたら、主権者たる我々の感覚とあまりに乖離しているといえるのではないだろうか。
さらに、選挙運動も併せて検討する必要がある。未だに公職選挙法はホームページや電子メールを使った選挙運動を認めていない。つまり、投票方法だけでなく、選挙にかかわるほとんどのことがアナログ時代のままである。一概に、電子化が良い政治をもたらすとはいえないとしても、現在の人々の生活や行動に馴染まなくなりつつある従来の選挙運動や投票方法を見直し、そろそろ本気で電子投票を考えてみてはどうだろうか。
[いわさき まさひろ/日本大学法学部教授]