神保町の交差点

●昨年度初めの5月、COVID-19感染拡大の状況に改善が見られないことから、やむなく株主総会の開催を見送り決算書を送付することにし、また事前承認のため、一人ひとりの株主に連絡をとりました。株主からは承認と励ましのお言葉をかけてもらいました。この状況下で会社設立の節目となる第50期を迎え不安ですと、ある株主に相談すると「貧乏には慣れているんだから大丈夫でしょ」と激励の言葉が返ってきました。この一年色々と大変でしたが、この言葉を思い出し21年度・第51期へ突き進みます。
●業界の一年はどうだったかと、隣の芝生をのぞいてみれば、コミックの売上は、前年比23%増の6126億円であったと、全国出版協会・出版科学研究所が2月25日、『出版月報』で発表しました。ピークだった1995年の5864億円を超え、78年の統計開始以来史上最高規模だったのです。内訳は、紙のコミックス(単行本)とコミック誌を合わせた販売金額が13.4%増の2706億円、電子コミックが31.9%増の3420億円となり紙と電子の差が大きく開き始めた年になりました。一方書籍、雑誌の売り上げのほうは0.9%と1.1%減ですが、近年と比べて減少幅は最小だったそうです。「巣ごもり需要」と言われ一時期書店様やネット関連に賑やかさを感じたのですが、ほとんどの専門書出版社に恩恵は届かなかったと痛感します。
●毎月、数十大学の紀要や学会誌、もろもろの研究機関の発行紙誌が小社に届きます。一通り目を通しているのですが、昨年の秋頃から届く冊子が妙に薄くなってきたのを感じます。出版界の最大組織である書協(日本書籍出版協会)の『会報』でさえ毎号8~10ページあったものが、三月号は4ページとなってしまったのです。世間でオンラインやリモートが浸透してゆく中、新しい働き方や学び方の模索が続いています。しかしながら最良な対策はまだ見つかっていません。小社の周辺でも研究会や報告会の場、多岐にわたる活動の自粛によって、研究のスピードはトップギアからローギアにシフトしてしまい、引きずられるように小社の活動も徐行運転状態となってしまいました。このような状況を早く脱することをただ願うばかりの自分に、苛立ちを抱きます。
●経済史研究者の張楓先生が、福山大学を拠点とした木工産業のフィールドワークを経て、「既存の「一極集中構造」論のなかで従属的な位置づけが与えられてきている地方工業地帯のあり方を再評価する」ことを目的とし、「地域がつくる産業・産業がつくる地域」という観点から、多種多業にわたる備後地方の産業史を、柳沢遊(慶應義塾大学名誉教授)、松村敏(神奈川大学)、北浦貴士(明治学院大学)、植田展大(立命館大学)、満薗勇(北海道大学)、高柳友彦(一橋大学)各先生とともに詳細に纏め上げた労作、張楓編著『備後福山の社会経済史』(2020年刊)が第45回中小企業研究奨励賞準賞を受賞しました。
●江原慶著『資本主義的市場と恐慌の理論』(2018年刊)が第15回(2020年)政治経済学・経済史学会賞を受賞しました。本書は博士論文審査時に指摘された疑問点に答えるため、3年をかけ、加筆するだけでなく構成から再度練り直し纏められました。博論を書き上げ数年経ち「本」にすると考えたときどう向き合うか、そのままでいくのか、再度手を入れることでレベルを上げて「本」にするか、世に出た時の評価は大きく変わるものと、江原慶先生の研究者姿勢を見て学ばせてもらいました。「本」を出すことは研究者にとって必要不可欠なことですが、出版社はただ原稿をお預かりするだけでよいのかという問いは、「お手伝い」を役目とする小社にとっても考え続けなければなりません。 (僅)