記念特集第三弾刊行にあたって

歴史学研究の「これから」というテーマにはひとつの限界が含まれていた。過去を扱う歴史学という学問のミライは、現在と過去の往還からしか生まれないようである。本特集へのご寄稿はどれも、過去を見つめ現場で悩みながら〈動き〉つづける先生方の往復〈運動motion〉を感じさせてくれる。
松田忍先生の論考のように、歴史学にはまず研究対象としての「運動」が存在する。一方でこの社会は研究者や学生を既知のカテゴリー(「継承の担い手」)に押し込める。社会から距離を取り近代の重要な社会通念をも相対化する〈運動exercise(教育・訓練)〉が必要だ。また加藤千香子先生の論考のように、「みんな」の圧力から逃れつつ、自らの体験を通して記述する「格闘」には、自己と他者の間合いを測りつつ踏み込む〈運動athletic〉の構えも必要になる。そして研究は安田常雄先生のプロジェクトのように創発的で、一定程度の偶然を含み、研究者の内なる共感と違和の往復が集団的な〈運動movement〉となり進んでゆく。
社会変革を求めて人びとが行動する「運動」には何かを変えるという目的が存在するが、歴史学研究にははじめから明白な答えがあるわけではない。現在と過去を、体験と資料を、部分と全体を往還しながら進む〈運動〉としてある。戸邉秀明先生にご示唆いただいたように「ブレない」経営計画を必要とする出版社も、原稿を依頼し、督促し待つだけではなく、研究者に場を提供しつつその場をともに〈運動〉する必要がある。なにより本誌が〈運動〉の場となり、また〈運動〉の歴史となることを心から願っている。