五十周年記念特集にあたって

 本年度、弊社が創立五十周年の節目を迎えるにあたり、特別企画を立ち上げた。過去ではなく将来を見据えた企画を、ということで本号ではまず、経済学の第一線で活躍する研究者の皆様に学界の「これから」をご執筆いただいた。本企画にご協力いただいた皆様へ厚く御礼申し上げる。
 実際に頂戴した原稿からみえてきたのはしかし、明るく輝く未来だけではない、研究者の方々のリアルな苦悩・不安・多くの課題であった。経済史・経営史研究の大島久幸先生と岡部桂史先生の原稿からみえたのは、中堅世代が抱える、資料が残らないことへの危惧・資料を残す責務の重圧であった。研究の礎たる資料をいかに残してゆくかは「これから」の研究の存続をも左右する重大な問題であろう。行間に先生方の不安と焦燥が垣間見える。また恐慌論研究の江原慶先生が課題として掲げられたのは、抽象的な理論の応用性および古典と理論研究との関係性の明示であった。令和の時代に疫病によって揺らぐ社会経済を眼前にして、現代資本主義が直面する事態をいかに捉えるかは人類社会にとっても未だ大きな課題であると感ずる。
 「これから」の経済学が対峙する課題は切実である。それに対し武田晴人先生が示されたのは「思想の冒険」である。既知の史料から新しい解釈を生み出す「方法的な問いかけ」を緊張感をもって続けることは、研究界にも生まれうる無責任の体系から訣別する営みであるという。そこかしこで不確実性の増大する現代において、自らの足下へと探求をすすめることは、ひとつの活路であるようにも感じられた。読者の皆様はどのようにお考えになられたであろうか。
 編集者として、皆様のご期待に応え生煮えではない立派な研究書を世に出し続けたい。そして、研究者の方々の不安・課題に寄り添える存在でありたいと切に思う。まずは本企画が、その端緒となればこれ以上ない喜びである。