• TOP
  • PR誌『評論』
  • PR誌『評論』215号:大妻ブックレット・シリーズの刊行 ──新しい大学情報発信の試み

大妻ブックレット・シリーズの刊行 ──新しい大学情報発信の試み

山崎 志郎

 このたび日本経済評論社から大妻ブックレット・シリーズを刊行することになった。これは大妻女子大学における優れた研究成果やユニークな教育の取り組み、地域貢献活動などを、多くの人に知っていただくためのもので、大学創設一一〇周年を記念して、今後十年間で数十冊の出版を予定している。
 大学に積極的な情報発信が求められるようになって久しい。以前は研究成果の発信は、研究者間での話だったが、今日では広く成果の説明が求められ、大学のHPには研究の概要や業績が平明な文章で紹介されるようになった。
マスコミに頻繁に出ることを嫌った学術世界の空気は過去のものとなり、著名な先端的研究者がサイエンス特集や社会問題の解説番組に出演することに違和感もなくなった。各大学は大部の大学案内を配布し、教育内容や学内施設を紹介している。高大連携で研究の楽しさを伝え、地域と研究の連携事業を進めている。
 しかし、大学における知の営みを、HPや大学案内だけでなく、より多くの人に、平明な文章でかつ詳しく知ってもらうために、ブックレットを出版するというのは、全国的にもまだ珍しい試みではないかと思われる。小冊子とはいえ、相当にしっかりとした内容にしたいと考えており、今後多くの教員がこの事業に関わる予定である。
最初に刊行された三冊を紹介したい。大妻ブックレット出版委員会編『女子学生にすすめる60冊』は、本学教員による推薦図書の紹介であり、大学の導入教育である「大妻教養講座」の一部であった図書案内を拡充した形になっている。本格的な古典や研究書を紹介する読書案内は多いが、本書では平易で軽妙な文体でありながら、「深い味わい」を持つ本を選書した。取り上げた六〇冊は通常の図書分類ではなく、「移りゆく世界を知る」「他者を知り、自分を考える」「幸福のかたち」「日本と日本人を知る」など、七つのテーマに分類されている。ジャンルとしては、歴史・地理学、認知科学、小説、歌集・句集、コンピュータ工学など、さまざまな分野のものが連なり、どこから読んでも構わないような構成になっている。読書人生の敷居の低い入り口として、学生が手に取ってくれることを願っている。
 安藤聡『英国ファンタジーの風景』は、英国児童文学研究の領域で既に多くの研究書を刊行している著者による研究紹介である。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』や、ロアルド・ダールの『チャーリーとチョコレート工場』、『マティルダ』や、J・K・ロウリングの『ハリー・ポッター』シリーズに代表される優れた英国ファンタジーについて、多くの風景写真とともに、作品の背景や風土・文化を分析したものである。今後の大妻ブックレット・シリーズでは、この形での研究紹介を多く刊行する予定である。
 尾久裕紀・福島哲夫編『カウンセラーになる──心理専門職の世界』は、カウンセラーという職業の紹介であり、また大妻での心理専門職の育成教育の紹介にもなっている。「心理学を学ぶ」「臨床心理学を学ぶ」「心理専門職の資格制度」「カウンセラーとして働く」「医療と産業の現場で働くということ」の五つの章で構成され、まず心理学の入門的解説や心理専門職という資格が生まれた背景が説明されている。さらにカウンセラーという仕事やそのキャリア形成、医療や産業の現場での役割解説と続く。心理学は若い人の関心がとても高い領域であるが、本書は専門職育成の観点から心理学教育を強化しようという本学の取り組みを紹介するものになっている。
 大妻ブックレット出版委員会では、今回に続き、二〇二〇年度には博物館・美術館など学外の教養・学修施設の紹介を企画している。本学教員が講義や現場研修として学生に紹介してきた施設について、広く発信し、学生たちに首都圏の充実した学修施設を大いに利用してもらいたいと考えている。
[やまざき しろう/大妻女子大学教授]