神保町の交差点

●昨年、荻野富士夫(小樽商科大学)、兒嶋俊郎(長岡大学)、江田憲治(京都大学)、松村高夫(慶應義塾大学)の四名の先生方が十年前から「合作社研究会」で、報告を重ねてきた研究成果を『「満州国」における抵抗と弾圧』として刊行しました。そのメンバーである荻野先生に『日本憲兵史』(小樽商科大学出版会発行、弊社発売)を続けて刊行していただく機会を得ました。荻野先生のお名前は、十年ほど前、『外務省警察史』、『特高警察関係資料集成』(不二出版刊)の資料集での解説・解題をされていたことで知りました。当時、他社の営業マンと各地の大学で出会った折、この資料は好評だと聞いたのです。国内、そしてアジア各地で恐れられた憲兵は、いかなる組織と意図のもとで暴威をふるったのか。その実態をいくつかの新たな史料を加え、創設から解体に至るまで論述され本格的な通史としてまとめられている労作です。●見城悌治先生(千葉大学)著『留学生は近代日本で何を学んだのか』を三月に刊行しました。先生に初めてお会いしたのは十七年ほど前、千葉大学の総合学生支援センター内にある留学生センターの研究室に、復刻資料『東京経済雑誌総索引』のパンフレットを持ってお邪魔した時で、話を終えて部屋を出ようとした時、先生から、「来週、隣の会館で留学生達による、国際交流事業〝ユニバーサルフェスティバル〟があるから来ませんか」とチラシをいただきました。よくよく屋内を見渡すと周りはすべてが外国人、異国に来たように感じたものです。イベント当日、会場は近隣の方も参加しているのか、満席で立ち見の方も多く熱気に満ちていました。ステージ上では各国の留学生たちが、民族衣装などを身にまといダンスや歌を披露しています。隣にいる数人の留学生に声をかけ、「どうして日本に留学してきたの」と質問してみました。留学生らの答えは、「日本で学んだ知識を母国に帰って役立てたい」とのことでした。今、千葉大学では世界五〇か国以上、約八〇〇名の留学生が学んでいるそうです。一九〇八年、「五校特約」により千葉医学専門学校に十名の留学生を受け入れたことに始まってから今年で百十年という年に、この本を刊行できたことは大きな意味を持つと感じます。●前号で、会社設立以来初の新刊ゼロ月を出してしまったと書きましたが、この一行に、数名の著者と同業者の反応がありました。「ちょうど、新刊のはざまで」とか「ずれ込んで」と当たり障りのない返答をしましたが、コンスタントに新刊を出し続けていた出版社が、ひと月新刊を出さなかったことで、こんなに心配されるものかと意外でした。その七月は、社員皆の意識を変える大きなきっかけとなり、出版の「魔の夏場」にどう本を出し続けていくか、本気で考える良い経験となりました。●昨年、定年や早期退職などで編集者は半分に減りましたが、二九点の新刊を今期作り上げました。研究書を生業にしている出版社で、一人十点の新刊点数は、他社からは驚かれます。さらに毎月一冊であれば予定もたてられますが、原稿入稿が同時期にかたまってやってきても、刊行期日は待ってはくれません。必然的に刊行は、年末、年度末に偏ります。五点六点同時進行となりながらも、集中力を決して切らすことなく、一冊一冊の本を丁寧に作り続けました。去年は年度末の繁忙期が一段落した五月のGW明け、社員の皆に「休みはどうでしたか」と聞くと、「孤独の台湾旅行に」とか、「自宅でゆっくりしていました」、「北海道を目指して旅立ったが、東北をゆっくり観光しことで、函館には一泊となってしまった」など、話をしてくれる皆の顔がいつもと違うことを感じました。今期は「正念場の二年目」から「飛躍の三年目」へと目標を定め、昨年に続き、今年のゴールデンウィークも、中二日の稼働日を社の休みとし九連休にします。この連休を有意義に活用してもらうことで、今期も乗り越えていこうと思うのです。●全国大学生活協同組合連合会が、二月二十六日に、全国の大学生の生活実態調査を発表しました。「一日の読書時間は平均二三・六分(前年マイナス〇・八分)と三年連続減少となった。また一日の読書時間が「ゼロ分」の割合は五三・一%(文系四八・六%・理系五四・五%・医歯薬系六二・六%)と、前年から四ポイント増加し、五年間で一八・六ポイント増となった」。読書時間を問うようになった二〇〇四年以降初めて「ゼロ分」が過半数を超えました。これは出版界にとっては一大事です。が、一日の平均読書時間が三年連続減少といわれるなか、一二〇分以上と長時間読書する層(全体の七・五%)は引き続き存在しており、「読む人」と「読まない人」の二極化が明確となる結果のようです。また、読書時間減少の原因としてスマートフォンの影響を挙げる声もありますが、同会の調査によると、「調査年ごとの読書・スマホ・勉強時間」の推移を算出し関係の有無をみたところ、読書時間の減少にはスマホ使用時間による直接的な強い因果関係は見られない」とも報告しています。読書時間の減少については今後も注視していきたいと思います。 (僅)