神保町の交差点

●ある日、著者から「私の本が、アマゾンのウェブページで品切れになっていて注文できない。まだ在庫はあるはずなのにどうしてなのか?」という問い合わせの電話をいただいた。他にも同様のご質問を受けたのです。この「どうして?」についてお話をしたいと思います。
 アマゾンジャパン(以下アマゾン)は米国から日本に上陸して今年で17年目になります。認知度が上がるにつれ日用雑貨・趣味・レジャー用品・食料品等多岐にわたる商品を充実させ、今も膨張し続けています。
 四月末、そのアマゾンが取引している出版社に「重要なお知らせ:商品調達および帳合取次との取引に関する変更について」との通達がなされ、出版界は騒然となりました。アマゾンの主要取引を担う取次最大手の日本出版販売(日版)との、一部書籍の取引(バックオーダー)を取りやめるという内容です。アマゾンが日販へ書籍を発注する際には、日販に在庫がある発注(日販→アマゾンへ納品するスタンダード)ケースと、日販に在庫が無い本の発注(日販→出版社→日販→アマゾンへ納品するバックオーダー)ケースがあります。
 今回やり玉にあがったのがこのバックオーダー発注です。
 アマゾンは、各出版社との直接取引(実際は06年から進められています)を拡大することで顧客へのサービス向上を図ろうと考えているといいます。アマゾンは5月から出版社向けにセミナーを開催し、直接取引の参加社を募っていました。小社もセミナーに参加しました。参加社にはそれぞれ、各社ごとに売上表と未来予想図が手渡され説明が始まります。「今、アマゾンが進めている個別直接取引(e託販売サービス)計画にご加入いただければ、売上げは倍増し、在庫管理ができ、返品や無駄な経費も削減できます」、「読者が本を読みたいタイミングでお届けするのが一番重要」と謳い、「まさにこれからのビジネスモデルなのです」と締めくくられました。渡された未来予想図は右肩上がりの素晴らしい、「これで出版社(界ではない)も生き残れます」と言います。だが本当にバラ色の未来がやってくるのでしょうか。小零細出版社にとって、この販路は一つの方策なのかもしれませんが、しかし双方の対等な交渉のもとで行われたわけではなく、一方的なご提案なのです。賛否はありますが、長年この業界は書店、取次、出版社の微妙な攻防(バランス)の中で共存してきました。それが、アマゾンと直接取引になったなら強者と弱者の一方的な関係でしかありません。それぐらい力の差は歴然としているのです。過去に割引拡大制度に抗議した出版社の本が、アマゾンのウェブサイトから削除された経緯があります。また昨年、キンドルで電子書籍読み放題を始めた時でも、採算が取れないとみるや、複数の出版社作品が事前の連絡も無く一方的に削除されたりもしました。そのような強引なやり方では出版社からの信頼がえられるとは思えません。取次には在庫分として100冊納入すれば、その分のお金が入ってきます。取次は出版社の金融機関なのです。個別取引となれば、アマゾンでは、同じ100冊を納品しても、基本的に入ってくるお金は実売部数分だけとなります。
 限られた読者へ向け本を作り続ける私たちにとって、リアル書店とか、ネット書店とかと分け隔てるのではなく、信頼できる書店として見極め、今後の商売を考えていかなければならないと思います。
 今回の説明会でアマゾンとの個別取引に応じない場合は先に述べた流通問題を踏まえ、品切れとなる場合が増えてきますと説明もありました。が、そのために販売できる本が「品切れ」では済まされません。今、取次会社とこの「品切れ問題」を解消すべく動いております。これが「どうして?」に対する現状のお話です。改善までもうしばらくお待ち下さい。
●3月、人材派遣会社を通し「書籍づくりに必要なスキルは、誰にも負けない好奇心です」とキャッチコピーを入れ、編集者を募集した。募集は2名、厳正に審査した上で12名と面接し、スケジュールを組んで4月、3名の面接官で1人1時間みっちり面接、「志望動機は」から始まり「どんな本が作りたいか」などなど。熟考の末、採用通知を出しました。期待に胸を膨らませ待ったのですが、結果は2名とも辞退。限られた時間で人を見る難しさ、人を選ぶ難しさを痛感した次第です。結論としては今後、人づてで探していくことが最良ということになりました。日本経済評論社は、若手の書籍編集経験者を募集しています。
●6月末、46回目の決算を終えました。初めての決算報告、株主とは長いお付き合いでありながらも、さすがにこの日は違った緊張感に包まれた自分がいます。この1年何をやってきてこれからどうしていくのか、という株主の問いに真摯に応えたつもりです。閉会後、小さな宴でねぎらいの言葉をいただき肩のこりが少し和らぐのでした。皆様のお力添えで、来期も本を出し続けることができます。 (僅)